近年、人が健康を損ない病気になる前の段階にあたる「未病」の状態で、恒常性を司る因子の一つである有機代謝物や生体必須金属が既に異常値を示す報告が急増している。例えば、がん細胞では特異的な代謝制御機構の存在が明らかになっており、有機代謝物のメタボローム解析からバイオマーカーの主成分プロファイルが報告されている。一方で、ごく最近になり発見、解明された細胞死メカニズムに金属元素が深く関与している事実が報告され大きな注目を集めている。しかし、現状では、メタボローム分析による膨大なデータと比べ、バイオメタルのメタローム分析に基づく病態解析や疾患診断の学術情報は不足している。

 

本研究室では, 日本の薬学でいち早く導入された大型分析機器の、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析装置、レーザーアブレーション元素イメージング装置、放射性トレーサーとSPECT画像解析装置を用いて、血液や組織中のバイオメタルの網羅的定量分析、同位体元素分析、二次元分布、時空間分布解析を行っている。

 

これらの統合的評価の結果をもとに、特に、
・亜鉛欠乏による皮膚、消化管、肝臓の炎症性疾患
・亜鉛・コバルトの変動と肝機能や腎機能
・鉄・硫黄の制御による細胞死(フェロトーシス)とがん治療
・マンガンと神経変性疾患
・銅および白金とがん治療
の関連において、バイオメタルと病態との関係を調べている。